一、〈煮〉―「和菓子屋のあの子」
幼い頃から、餡子あんこの匂いが好きだった。 自室にいても、家のどこにいても、ふと鼻をくすぐるのは、手作りの餡子の香り。これが、我が家の匂いだった。 饅頭を蒸す蒸し器や、豆を煮込む大きな鍋が、早朝から休むことなく働く我…
歴史と映画と、小説と、ときどき行政書士。
幼い頃から、餡子あんこの匂いが好きだった。 自室にいても、家のどこにいても、ふと鼻をくすぐるのは、手作りの餡子の香り。これが、我が家の匂いだった。 饅頭を蒸す蒸し器や、豆を煮込む大きな鍋が、早朝から休むことなく働く我…
吉田という男を私はよく知らなかったが、数学の授業で彼と隣になり、何度か顔を合わせるうちに、わかったことがいくつかある。 こいつは、私以外には饒舌だ。 私と話す時とは違って、噛まずに話せるし、ちゃんと相手の目も見られる。 …
今日の数学は、新単元。何やらややこしい、図形の証明なるものをしなければならないらしい。 数学なんて、公式を覚えてひたすらに数字を書いていれば良いと思っていた私は、ここで国語力と暗記力をも身につけなくてはならなくなった現実…
練り切りとは、中の餡子や白餡を求肥ぎゅうひと呼ばれる白玉粉と水を練り上げ、色をつけた練り切り餡で包み、外側を美しく細工する日本の伝統的な和菓子である。 その形はさまざま。花や果物、動物、さらにはキャラクターを模したも…
あれから、吉田は普通に話してくれるようになった。 私限定で発動していた挙動不審も、最近は少し落ち着いている。 そして吉田は、うちへ頻繁に通うようになった。 最初は週に一度だけ。でもその翌週は三日おきで、今週に入ってからは…